いま足元でなにが起こっているのか...

物事を客観的に捉え、何をしなければならないかを冷静に考えるヒントをピックップします。主観は排除し、過去の常識にとらわれず、「Opinion」ではなく「Fact」を伝えることをモットーとしています。転ばぬ先の杖...それがこの“Sheel Report ”です。

米国における「オピオイド危機」深刻 ~ 後編 ~

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オピオイド危機 ~ 後編 ~

トランプ大統領支持地域の薬物蔓延実体が政治を動かした
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厄介な輸入品...

死亡ケースが急増している医療用麻薬オピオイドの一種フェンタニルについて、トランプ大統領は「ほぼすべてのフェンタニルは中国から流入している」とし、2017年12月に行った中国の習近平国家主席との会談で、規制薬物に指定するよう説得したと語っています。

 中国は、医療用麻薬オピオイドの一種フェンタニルの全関連物質を規制薬物として指定すると発表していました。

中国は、米国に次ぐ世界第2の製薬産業を抱えています。なかでも、低価格のジェネリック医薬品や薬の原材料の生産に頼っており、規制も緩いのが現状です。

米麻薬取締局(DEA)によれば、中国の業者がフェンタニルなどを大量生産し、数年間で数十万もの偽装薬物を普通郵便で米国に送り込んでいるとしています。

 詳細な量は把握されていないが、中国からメキシコやカナダに渡り、米国に持ち込まれるものもあるといいます。

暗号化されたメッセージアプリやビットコインなど仮想通貨の普及も、こうした取引の温床となっているとされています。

フェンタニルとは、主に麻酔や鎮痛、疼痛緩和の目的で利用される合成オピオイドで、モルヒネの50~100倍強力とされているもので、医療では1996年のWHO方式がん疼痛治療法の3段階中の3段階目で用いられる「強オピオイド」です。

中国からのフェンタニル流入は、オバマ政権時代から問題視されていて、中国は2015年、フェンタニル関連を含む100種類以上の合成化学物質を規制対象リストに加えていますが、わずかに構造を変えただけで規制から外れるため、規制が追いつかない状況になっているようです。

そしてこの中国製の合成オピオイドが、トランプの支持層が多い、製造業の衰退で苦境にあえぐ「ラストベルト」の一角をなすオハイオ州に、最も多く流れているという調査報告があるのです。

これにはトランプ大統領は黙っていられません。

もちろん政府は、このことに関しても、国土安全保障省などに水際の監視強化を指示しています。

昨年末の米中首脳会談でも、習近平中国国家主席に対して強く取締りを要請し、声明文においても、最大の焦点だった貿易交渉の結果よりも先に、中国によるフェンタニルの規制強化が書かれていたそうです。

疾病対策センター(CDC)が2018年11月に公開した報告書では、2017年の米国民の平均寿命は78.6歳で、3年連続で下がっっていて、これは、スロベニアやコスタリカよりも低い世界29位になるようです。

その主因となったのが、薬物の過剰摂取と自殺の急増だと指摘されています。

   中国が米国民の寿命を縮めている...

トランプ大統領は、本気でこう思っているのでしょうね。

   医療や製薬の先進国アメリカで平均寿命が下がり続けている...

全てが中国のせいとは言い切れないと思いますが、なんか皮肉なものですね。

おそらく経済的困窮者の手にも、オピオイド鎮痛剤が届きやすくなっているのではないかと想像してしまいます。

製造業が衰退した中西部やアパラチア山脈周辺のラストベルトで死者数が多いようで、民主党が強い東西沿岸部のリベラルな州を中心に大麻の解禁が広がっている状況下で、トランプ大統領の支持が根強いラストベルトに薬物が蔓延している事態を、選挙を控えたトランプ大統領としては、黙って見過ごすわけにはいかな
いでしょう..

人口10万人あたりの死者数は、最も多いウェストバージニア州2010年の28.9人から2016年には52人に増加。2位のオハイオ州は、16.1人から39.1人と2倍以上に増えているそうです。

こうした地域では、経済的にも他の地域より苦しい状況にあり、景気回復が続く米国でも、オハイオ州の失業率は4.6%で、全米で7番目に悪くオピオイドの100人当たりの処方率を分布したCDCの地図では、処方率の高い地域が、ウェストバージニアやケンタッキーなど、所得が低い州に集中しているとのことです。

娯楽用大麻を合法化した、カリフォルニア、ワシントン、オレゴンコロラドどの10州は、比較的所得が高いリベラルな地域が多く、「ラストベルト」との対比を「深刻な格差」と捉えると、やはりトランプ大統領は黙ってはいられないですね。

ちなみに、米大統領経済諮問委員会(CEA)は、オピオイドの蔓延による経済損失は2015年で5040億ドル(約57兆円)、国内総生産(GDP)の2.8%にまでのぼると試算しています。

日本の国家予算の半分以上にのぼる金額ですね。



☆米国の医療保険制度の問題も指摘
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かつて世界3位の鉄鉱石の集積港として栄えた米オハイオ州北東部エリー湖沿いの港町での、オキシコティンというオピオイド系鎮痛剤の話...

  この辺りは手に入りやすいドラッグがとにかく多く、そして安い...

オキシコンティンはオピオイド系鎮痛剤の一種で、前述のパデュー・ファーマ社が1990年代から販売してきた、がん患者の鎮痛剤などとして使われている、強力な効き目から劇薬ともされている薬です。

オキシコンティンは、1錠15~30ドルほどで手に入るそうで、それを月に90~180錠の処方を受け、それを1錠80~120ドルで売る、いわゆる転売が普通のようです。

ここでのポイントは「非がん患者へのオピオイド処方」です。

非がん患者の慢性的な疼痛へのオピオイド処方が急増したのは1990年代終わりごろと言われています。

パデュー社のセールス担当が、当初の目的のがん専門の医師ではなく、一般の診療所などの医師に効用を偽って販売していた手法が発覚しています

一方で、米国の医療保険制度の問題も指摘されています。

米国医療と言えば、日本のような皆保険制度はなく、民間医療保険と、高齢者・障がい者向けのメディケアか、低所得者向けのメディケイドという公的医療保険があるものの、無保険者も8.8%(2016年)もいます。

慢性疼痛にはオピオイドが第一選択肢となるべきではなく、非オピオイドの投薬(薬物依存性が少ない)や理学療法、代替治療や痛みの自己管理・緩和方法等が有効とされていますが、そうした治療は医療保険ではまかなわれないことが多いのが実情です。

まさにお金の持ち出しの問題、経済的理由です。

痛みに対して適切に対処してくれるペインクリニックや専門の医師へのアクセスが困難な地域に住んでいる人々も少なくないという実情もあります

政府の対応としては、2016年、オバマ政権時に連邦法としては、薬物乱用に対する包括的な対策法である「包括的依存症回復法」が制定されました

予算措置が必要な補助金プログラムを設定し、複数の省や関係者によるタスクフォースを設置して疼痛管理に関する最適な手法を定めることや、社会・医療従事者への教育・意識啓発を行うこと、依存症治療薬の処方を医師以外にも一定の資格を有する看護師や医師助手にも可能にすることなどを規定しました。

トランプ政権では、大麻の取り締まりを強化する方針を打ち出していますが、マリファナ(大麻)合法化を進めている州政府との対立があるようです。

官民パートナーシップで常習性の無い鎮痛薬を開発するための国立衛生研究所に対し、大きな予算を組むなどの動きは見られてはいますね。


☆日本でももっと関心を...
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日本でも医療用大麻解禁が話題になることもありますが、昨今芸能界を騒がせていることもあり、この問題はなかなか進みそうにないようです。

   お酒は、タバコは、それこそカジノは...

様々な依存症を取り巻く議論はあるようですが、米国事情を「対岸の火事」と、ただ眺めているのではなく、今の米国社会を、格差社会のひずみの延長線上にオピオイド問題があることを、しっかりと認識する必要があると思いますね...



☆(おまけ)テクノロジーオピオイド中毒を救う...?
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こうした状況を改善するため、カーネギーメロン大学の学生はオピオイドの摂りすぎをユーザーに警告するウェアラブルバイスを開発しました。

以下報道された内容をそのまま掲載します...

カーネギーメロン大学の学生Rashmi Kalkunte氏が開発したHopeBandはパルスオキシメーターを搭載しており、血中酸素濃度の低下を検出すると光や音で知らせたり、テキストメッセージを送信したりしてユーザーに知らせます

Kalkunte氏は「常に過剰摂取の徴候に気をつけてくれる友人がいたらと考えてみてください。その友人はあなたがどのように薬を使用するか、そのパターンを知り、どのタイミングで助けが必要だと教えてくれます。HopeBandはそのような役割を果たすよう設計されています」と説明しています。

開発チームは、まだこのウェアラブルバイスを実際の環境で試験できていません。しかし、オピオイド中毒への対応をするためにシミュレーションされた入力を用いた研究室ベースでの模擬的な試験では有望な結果が得られたとしています。

HopeBandは、まず米国の社会福祉制度である注射針交換プログラムを通じて無料オピオイド使用者に配布される計画です。さらに有料バージョンは16~20ドルで販売される可能性があるとのことです。

#米国 #薬 #薬害 #オピオイド