研究費用を運用で賄おう...
このほど日本政府は、2021年度中に10兆円規模の「大学ファンド(基金)」を立ち上げ、運用により研究資金を拡充する計画を打ち出しました。
まずは公費として4.5兆円を拠出、国内外株式に65%、債券に35%とするポートフォリオによる運用益を目指します。
目標運用利回りは、研究支援にあてる支出3%に物価上昇率1.38%を上乗せして4.38%と設定しました。
この報道があったのは7月下旬、運用は2021年度中に始めるとし、当面は支出上限3000億円、運用開始から5年以内に3000億円の運用益を目指すとしています。
なんか規模が小さくないですか。
これで大学での様々な研究費用を賄えって言うのでしょうか。
海外名門大学の例を見てみましょう
NHKニュース記事によれば、2019年度の数字で
ハーバード大学が約4.5兆円
イェール大学が約3.3兆円
スタンフォード大学が約3.0兆円
ケンブリッジ大学が約4591億円
オックスフォード大学約8235億円
東京大学約150億円
京都大学約200億円
大阪大学約50億円
慶応義塾大学が約780億円
早稲田大学が約300億円
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210805/k10013182741000.html
あの~桁が違いすぎませんか...
目標運用利回りは、研究支援にあてる支出3%に物価上昇率1.38%を上乗せして4.38%と設定しました。これは、GPIF(年金積立金完治運用独立行政法人)の目標4%よりも、高く設定されています。
このような目標利回り設定で良いのですかね。
政府の有識者会議は、株式65%、債券35%を資産構成の目安とする運用方針案をまとめています。
今年度中に運用開始し、5年以内に実質3000億円の運用益を確保した後、10年以内に長期運用目標を達成するポートフォリオの構築を目指すとしています。
株式比率高めの運用方針
株式への比率は、全体の4分の1と規定している年金運用よりも高めになっています。
Bloomberg電子版によれば
世界標準の長期投資と国際分散投資を実践するほか、リスク分散の観点からプライベートエクイティ(PE、未公開株)や不動産などのオルタナティブ(代替)投資を積極的に推進することも基本方針に盛り込まれた。目標達成のための基本ポートフォリオは、管理運用主体の科学技術振興機構(JST)が定める...
運用悪化により、大学への資金拠出が滞ることを最大のリスクと位置付け、運用益から支出上限の2年分に相当する6000億円をバッファーとして蓄積させる...
仮に、累積実現損が3期連続で自己資本を上回った場合、事業の見直しを国と協議する...
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-07-27/QWVM9OT0G1L201
としています。
リバランスが重要
こういったポートフォリオを組んでの運用は、リバランスが重要になってきます。投資環境により、資金配分を見直すポイントが重要になってきます。
政府は元本4.5兆円分を既に予算計上しており、早期に10兆円まで積み増すことを想定しているようです。
でも、海外の大学での運用はもっと積極的で、歴史も古いので実戦経験があると言えばそうなのですが、有名なハーバード大学の運用は、平均値で年利回りは、プラス9.5%あります。
直近で高いときは、2011年のプラス21.4%、逆に、低いときは2009年のマイナス27.3%です。
まあ運用ですから、アップダウンは当然ありますけどね。
運用先も、株式等の資産以外に、コモディティや不動産、ヘッジファンドやエクイティファンドといったオルタナティブ投資のウェイトも高めになっています。
いわゆる、積極的にリスクを取りながら、オルタナティブを交えて調整しています。
「イエール投資モデル」と言われるイエール大学では、2011年の運用リターンはプラス21.9%、20年間の年平均リターンはプラス14.2%になっています。
まあ、投資の経験値の違いがありますが、目指すのは海外大学レベルといきたいところですが、お国や国民感情が、それを許してくれるでしょうかね。
研究費をクラウドファンディングで調達することも、今後は考えられます。
とにかく国が主導する「大学10兆円ファンド」は始まったばかりです。
今まで「官」が動いたこういった運用プロジェクトは、成功した試しがないのですが、果たして、このマーケット運用は、大学を、研究の未来を、日本に知的レベルを救うことができるのでしょうか...