原子力発電所の運転後に出る、いわゆる「核のごみ」の最終処分場の選定をめぐり、北海道寿都町(すっつちょう)の町長は8日、選定の第1段階となる「文献調査」への応募を決めたことを明らかにしたことが、大きな話題となりました。
2017年に調査対象になる可能性がある地域を示した全国の「科学的特性マップ」を公表して以降は初めての自治体となります。
片岡春雄寿都町町長は記者会見し、「住民説明会、産業団体への説明会が終わり、私の判断として文献調査の応募を本日、決意した」と述べ、文献調査への応募を決めたことを明らかにしました。
応募の理由については「反対の声が多く感じられるかもしれないが、賛成の声も私自身に直接、相当の数が来ている。そういう判断の中で私は一石を投じ、議論の輪を全国に広げたい」と説明しました。
また、片岡町長は近く原子力発電環境整備機構(NUMO)を訪れ、直接、文書を提出して調査に応募する考えも示しました。
8日は、同じ北海道の神恵内村(かもえないむら)でも村議会で調査への応募の検討を求める請願が採択され、高橋昌幸村長は9日、文献調査への応募を決断する見通しです。
相次ぐ自治体の応募で、長年行き詰まっていた最終処分場の選定に向けたプロセスが動き出すことになります。
科額的特性マップ(経済産業省エネルギー庁)
「核のごみ」とは高レベル放射性廃棄物のことで、日本は、使用済み核燃料を化学的に処理する「再処理」を行って、再び燃料として使うためのプルトニウムなどを取り出す計画ですが、再利用できない高濃度に汚染された廃液が残り、これをガラスを混ぜて固めたものが高レベル放射性廃棄物と呼ばれています。
高レベル放射性廃棄物は、時間がたつと減衰するものの極めて強い放射線を出す高レベル放射性廃棄物は、人の生活環
境から数万年にわたって隔離する必要があります。
このため、国は、高レベル放射性廃棄物と一部の核燃料の部材を地下につくる処分場に埋める方針です。
処分場は、地下300メートルより深くにつくる計画で、高レベル放射性廃棄物は厚さ20センチの鋼鉄製の容器に入れられ、さらに特殊な粘土で覆うなどの対策を取って処分されます。
4万本以上の高レベル放射性廃棄物の処分を想定していて、全国のどこかに1か所つくる計画で、事業費はおよそ3兆9000億円にのぼる見通しだということです。
高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のゴミ」を埋没させる場所には一定の条件があります。
科学的特性マップはその条件を示したもので、「好ましくない」場所として
- 火山の周辺
- 活断層の影響が大きいところ
- 隆起・侵食が想定されるところ
- 地熱の大きいところ
- 軟弱地番
- 鉱物資源が分布するところ など
が挙げられています。
逆に「好ましいところ」として
海岸からの陸上輸送は容易な場所
としていています。
処分場所選定には、原子力発電環境整備機構(NUMO)が選定調査を行います。それが「文献調査」「概要調査」そして「精密調査」です。
今回の寿都町でのケースでは、第1段階として2年程度で「文献調査」を行い、第2段階として4年程度で「概要調査」を行います。そして第3段階として14年程度で「精密調査」を行います。
実際に寿都町に処分場ができるのは20年ほど先のことになりそうで、さらにその後の処分場の建設には10年程度かかる計画でそうです。
仮にことしから調査が始まって、3つの調査を終えて建設したとしても、30年程度を足すと2050年ごろになり、2037年という目標には間に合わない見通しです。
「文献調査」とは、全国規模の文献・データに加え、地域固有の文献・データを机上で調査するもので、地域別に整備されている地質図などの文献・データ、地質などに関する学術論文などを収集し、情報を整理します。
「概要調査」とは、地上からの物理探査やボーリング調査、トレンチ調査などにより、火山や活断層などに加えて、坑道の掘削に支障がある場所がないか、岩盤中の破砕帯(断層活動に伴い、周辺の岩石が破砕され割れ目の集合体となったもの)がないか、また、地下水の流れが地下施設に著しい影響を及ぼすおそれが高い場所かどうかを調査します。
「精密調査」とは、地上からの調査を実施するとともに、地下に建設する調査坑道(トンネル)を使って、岩石の強度などの物理的性質や地下水の化学的な性質(アルカリ性、酸性など)などについて調査します。
給付金目立ての町おこしという構図
2007年に高知県東洋町が行っていました。北海道寿都町は2例目になるようです。
高知県東洋町では、2006年3月に応募の書類を提出するも、原子力発電環境整備機構(NUMO)から「町民に説明がされていない」などの理由で受理されず返却されていたことが、翌年の2007年1月中旬に明らかになりました。
当時の町長は独断で応募の判断をしたことに「軽率だった」と陳謝したものの、およそ10日後の2007年1月下旬になって、当時の町長は「これまで町民などに対して勉強会を開き、一定の周知がはかられたと思っている」として文献調査に応募し、NUMOは受理しました。
過疎や高齢化に直面し財政難を抱える町にとって、調査によって支払われる最大20億円の交付金が大きな理由でした。
高齢化が加速している地方都市にとっては、給付金は、是が非でもすがりたいものかと思います。
寿都町が応募に踏み切った背景には厳しい財政状況があります。
今年度の一般会計およそ52億円の歳入のうち、町税は2億円余りにとどまります。
一方で、町で取り組んできた風力発電による売電収入は2億円以上と、町税と並ぶ額に上っているほか、ふるさと納税に伴う収入がおよそ10億円に及び、貴重な財源となってきました。
綱渡りのような運営状況ですね。
しかし、今後、風力で発電した電気の買い取り額の低下が見込まれるなどとして、町は5年後から大幅な財源不足に陥るとの試算を明らかにしています。
ただ、ものが原発廃棄物だけに、住民の気持ちとしては複雑なのでしょう。
当時の高知県知事や隣接する徳島県知事は、NUMOと経済産業省に調査を行わないよう強く求めたほか、地元住民などからも多くの反対の声があがり、東洋町の議会では町長に対する辞職勧告が決議されました。
こうした状況に当時の町長は、2007年4月、民意を問うために辞職し、出直し町長選挙が行われ、こうして行われた調査への応募の是非が争点となった選挙では、結局、撤回を訴えた新人候補が当選し文献調査は白紙となりました。
本当に住民の同意を得るのは難し事案で、原発事業の負の遺産としては深刻な話になっていますね。
ちなみに給付金は、第1段階応募で最大20億円、第2段階応募で最大70億円となていて、第1段階で、例えば住民の反対で処理場設置申請を取り下げても、最大20億円は給付されたままです。
札束で頬を叩くようなやり方
北海道は、幌延町に高レベル放射性廃棄物の処分技術の研究施設を受け入れるにあたり、研究は認めるものの、「高レベル放射性廃棄物は受け入れがたい」などとした条例を平成12年に制定しています。
このため、今回の調査への応募の動きに対し、道は一貫して、条例を順守し慎重に対応するよう求めてきました。
寿都町の応募への検討が明らかになると、鈴木知事は「全国の核のごみが集まる入口に立つ可能性があり、無害化まで将来10万年にわたり影響を受けるかもしれない」として懸念を表明しています。
北海道鈴木知事は、自治体の応募による選定プロセスについても「国が『最大20億円渡しますよ』と、頬を札束ではたくようなやり方で、手を挙げさせるのはどうなのか」と述べ、反発しました。
さらに鈴木知事は、第2段階にあたる「概要調査」に移る場合は、法律に定められた手続きに基づいて反対する考えを表明し、町の動きを強くけん制しています。
先月3日には片岡春雄町長と直接会談し、応募は条例の制定趣旨と相いれないとして慎重な判断を求めました。
一方、道議会は今月2日、「立場の異なる関係者の意見がぶつかり、地域に修復困難な亀裂をもたらすことが懸念される」として、冷静かつ透明性の高い議論を求めるとした決議を全会一致で可決しました。
ただ、道議会の自民党会派の中には調査への応募を水面下で後押しする動きもあり、今後、鈴木知事や、応募に反対する会派との間で立場の違いが表面化する可能性もあります。
この問題は、まさに地方において「分断」を生む火種となりそうで、政争にもつながっていきそうですね...